愛媛県立とべ動物園

しろくまピース

ピースのおいたち

飼育員:高市敦広

出産直後

はじめに…
はじめに…
1999年12月2日、とべ動物園でホッキョクグマの赤ちゃんが生まれました。国内でのホッキョクグマの出生は、それまでに122頭報告されていましたが、半年以上育ったのはわずかに16頭と極めて育成率が低く、また、人工哺育の成功例は全くありませんでした。
今回、当園で出生した2頭のうち、1頭は発見時には既に母獣による咬傷を負っており、救命処置を施しましたが、2時間後に死亡し、残る1頭を人工哺育に切り替えた結果、生後1年を経過した現在でも、順調に育成しています。
飼育個体

両親は、オスがパール、メスがバリーバというペアです。また、バリーバにとって、初めての出産でした。

4日令

ミルクの種類と濃度
ミルクの種類と濃度
人工哺育をはじめて最初の壁はミルクの種類と濃度がわからないということでした。当初、海獣用のミルクを与えてみましたが、下痢を発症したため使用を中止し、犬用ミルクを低濃度で与えることから開始し、徐々に濃度を高め、最終的にミルクと水の重量比を1:4~5にすることで落ち着きました。この濃度に決定した判断基準は、飲み具合、体重の変化、排便状態の三点でした。この個体には、この濃度があっていたらしく、1日あたり150~300gの体重増加が見られ、下痢もほとんど起こさなくなりました。
1日の授乳量は200ml程度から、離乳を開始する頃には1800mlにまで増加しました。
ヒステリー

次に出て来た問題はヒステリーでした。突然火がついたように泣き叫び、それが数時間続くのです。最初は原因がわからず心配しましたが、よく観察すると暑がっていたり、排便が完全でなかったりしたことが原因だとわかり、それらのストレスを取り除いてやると治まりました。

屋外での哺乳

温度管理
温度管理
飼育温度に関しては、他の肉食獣同様、ペット用パネルヒーターによる加温を行い、飼育箱内を25℃に保っていましたが、生後10日目頃から暑がるような仕草を認めたため、生後14日目にはパネルヒーターの使用を中止し、発泡スチロール製の飼育箱内で、室温での飼育としました。しかし、生後30日目頃から再び暑がるようになったため、木製の飼育箱に移しました。これで安心と思ったのもつかの間、10日ほど経つと、また暑がり始めました。そのため、飼育箱を置いていたキーパールームの暖房も中止しましたが、日を追うごとに低い環境温度を求めるため、最終的には10℃以下になる屋外での人工哺育となりました。
また、夜間及び担当者の定休日には自宅へ連れて帰っていたため、自宅では窓を開放し、最も温度が低いと思われる場所で飼育しました。
担当者の専任

野生下でのホッキョクグマの出産、育児は寒い北極の冬季に雪洞内で行われ、長い時には6ヶ月近くその中で過ごします。その間仔は母親、兄弟としか接することがないため、そこにある「におい」の種類はごく限られたものとなっているはずです。また、生まれたばかりのホッキョクグマの仔は眼も耳も閉じた状態であるため、嗅覚のみが情報源であると推測されます。そこで、情報交錯によるストレスを防止するため、哺育担当者を1名に限定しました。一度だけ、担当者の出張でやむを得ず3日間他のキーパーが哺育を担当しましたが、その間はミルクの飲みが悪く、体重も減少しました。

ビタミンと鉄分

海外の文献を見ていると、ビタミンB不足によると思われるホッキョクグマの死亡例があったため、20日令頃より、乳児用総合ビタミン剤の添加を始めました。また、離乳が進んでからは錠剤のビタミン剤へと切り替えました。それに加えて、人工哺育の仔は鉄欠乏症貧血になりやすいため、生後3ヶ月令までは、一月に1回鉄剤の筋肉内注射を実施しました。これらのことが、人工哺育成功のひとつの要因ではないかと思われます。