神様の失敗作
オオサイチョウは、南米獣舎に展示されていますが、実は東南アジア諸国に生息しています。その大きなクチバシ、飛翔の際に聞かれる機関車のような大きな羽音などから、現地では「神様の失敗作」とも呼ばれているようです。
しかし、実際には失敗作どころか、その一つ一つがこの鳥の持つ不思議な繁殖の習性に欠かすことのできない、大事なそして非常に優れた道具なのです。

 バナナドリ??
サイチョウを見つけた子供さんたちが必ず言うのは「バナナドリだ!」。確かにクチバシは形といい曲がり具合といい、バナナにそっくり。木の実(野生のイチジク)を主食とするサイチョウは、この長いクチバシで、細い枝の先にある実まで取ることができます。でもこのクチバシの役目はそれだけではありません。

 長い長い仔育て
サイチョウの仲間は、ヒナを育てる時に、メスが巣の中に閉じこもってしまうことが知られています。繁殖期を迎えたペアは、入り口がなるべく狭くて、中が広くなっている樹洞(樹の幹にあいた穴)を選んで巣づくりをします。交尾の後、メスは巣に閉じこもって、その入り口を泥や糞を使って、ほんのわずかな隙間だけを残し、ふさいでしまうのです。その時に、大きなクチバシをこてのように使ってぺたぺたと壁を作ります。それから卵を産んでヒナがかえるまで40日、その後更に40日をヒナと一緒に巣の中で暮らします。その間、餌は食べないの?いえいえ、オスが毎日運んできます。オスは、木の実を喉に溜め込んでは巣の前まで飛んで来て、ひとつずつ吐き戻して長いクチバシで巣の隙間からメスに渡します。この時、真っ暗な巣の中にいるメスに、「敵ではないよ、お父さんだよ」という合図を送るのがガッシュガッシュという大きな羽音なのです。この翼の音が聞こえないと、たとえオスでも、巣の入り口に近づいた途端、メスの鋭いクチバシで激しく攻撃されてしまいます。オスは、一回に約百個の木の実を運び、何と、一日に十回くらいそれを繰り返します(千個も!)。しかも、どんなに天気の悪い日も休まずに、メスに餌を運び続けるのです。もし人間だったら、ものすごい責任感と愛情がなければとてもやり遂げることのできない仕事でしょう。また、自分が大空を自由に飛ぶことをすっぱり止めて巣の中にこもってしまうメスも、これまたすごい!オスに対する全幅の信頼がなければ、そんなことはできません。お互い強い信頼で結ばれ、各々が自分の役割をきっちり果たすのがサイチョウの仔育てです。さて、ヒナがかえって40日を過ぎた頃、巣の中からはガンガンという大きな音が聞こえるようになります。メスが、今度はクチバシをハンマーのようにふるって、入り口の壁を壊す音です。身体がやっと通り抜けられるだけの隙間が開くと、メスは巣から出て来てしまいます。でも、オオサイチョウのヒナが巣立つのは、孵化後約80日なのです。お母さんは仔育てをやめてしまうのか?巣に残されたヒナはいったい?
この続きは次号の「よもやま帖」でお話いたしましょう。どうかお楽しみに。
                             平成13年4月発行


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