ヒナの成長に併せて「ツインカム」
さて、巣に残されたヒナは、ふ化後40日齢、羽はだいたい生えそろったものの、まだ飛ぶことはできず、巣立ちのできる状態ではありません。実は、この時期になると、ヒナの食べる量がとても多くなって父親だけでは、餌を集めきれなくなるため、母親も巣を出て餌集めをするようになるのです(いわば共働き)。
自分のことは自分で
残されたヒナが最初にすることは母親が広げた巣の入り口を自分で閉じることです。まだ頼りないクチバシを使ってぺたぺたと壁を作っていくのですが、誰に教わるわけでもないのに一生懸命糞や泥を塗りつけます。そして出来上がった細い隙間は、餌を受け取る小窓になり、同時に糞を捨てるトイレにもなります。巣の中に糞が残っているとそのにおいで敵がやってきます。そこでヒナはウンチをしたくなると入り口の隙間にお尻を向けて、上手にピューッと外へウンチをしてしまいます。こうして更に40日の間、ヒナは両親が運んできてくれる木の実や小動物をたくさん食べて、どんどん大きくなっていきます。
国内での繁殖は当園だけ
とべ動物園では、1990年に国内で初めてオオサイチョウの繁殖に成功しました。この時は、母親が途中で子育てをやめてしまった為、ふ化後26日齢から、飼育係が育てることになりました。四角い箱に小さな穴をあけて、そこからピンセットで餌をやるようにしたのですが、握りこぶしを少し大きくしたくらいの身体にまだ羽は全く生えておらず、まるでアヒルの丸焼きのようなヒナでした。それでも一人前に、糞は穴へ向けてするし、給餌の際、声をかけずに穴の中にピンセットを入れると、敵と間違えて攻撃してきました。その時のヒナが、今南米獣舎にいる「カオヤイ」というメスです。オオサイチョウの故郷、タイのカオヤイの森まで飛んでいけるくらいに元気に育て、という願いを込めた名前です。

いよいよ巣立ち
ふ化後80日、羽も立派に生えそろったヒナはいよいよ巣立ちを迎えます。でもどうやってその時期を知るのでしょう?まず、それまで毎日餌を運んでくれていた両親が、パタッと餌運びをやめてしまいます。お腹のすいたヒナはやむを得ず、入り口の壁を少し壊して外の様子をうかがいます。両親は、おいしそうな餌をくわえたまま、近くの枝に止まって、ヒナをじっと見守っています。ヒナが辛抱できずに顔を外へ出すまで、丸一日くらいかかりますが、じっと待っているのです。途中でヒナが引っ込んでしまうと、巣のそばまでいって、餌を見せびらかします。ヒナは、何度も餌をねだりますが、両親は決して与えません。そして更に一日くらいかけて、ヒナは巣の入り口をガンガンとたたいて壊し、やっと飛び立つ決心をして、巣から出てきます。産卵から120日、長い長い仔育てが終わりました。言葉のやり取りは何もないけれど、独り立ちさせる時に、決して手を貸さず、でもじっと見守るサイチョウの愛情には、過干渉や虐待が深刻化している人間社会が見習うべきものがあるのではないでしょうか。ちなみに、オオサイチョウは、一度ペアリングするとどちらかが死ぬまで、ずっと仲良く寄り添って暮らします。この鳥が、「神様の失敗作」であるなら、我々人間はいったい・・・?
平成13年5月発行
|
|