愛媛県立とべ動物園

飼育日記

コウモリてんこモリ

【その21】大忙しの一日

 とべ動物園では、愛媛県から委託されている傷病鳥獣保護事業の一環として、迷子になったり弱ったりして飛べなくなったコウモリの保護を続けていますが、毎年だいたい5頭以上が保護されます。ところが2020年から2021年は2年間で5頭と、普段の半数ほどでした。コロナ禍で外に出る機会が少なくなったことが影響したのでしょうか?もしかしたら、感染が拡大した当初はコウモリが感染源ではないかと疑われていたため、敬遠されたのかもしれません。2022年も6月までは全く保護がありませんでした。ところが7月1日に前回ご紹介した「クーちゃん」、その後7月22日に新居浜市内から赤ちゃんが1頭やって来ました。新居浜市生まれなので「新ちゃん」です。新ちゃんの体重は2.92gでしたが、まだまだミルクが必要です。

 さあ、今まではクーちゃん1頭だけだったのが、2頭となるとちょっと時間がかかるようになりました。しかもそう思ったのもつかの間...。さらに2日後の7月24日には別々の場所から3頭ものコウモリがやって来たのです。

 まず1頭目は道後の商店街で迷子になっていた子です。見つけて下さったのは、たまたま県外から道後温泉に旅行に来ておられたお二人。話を聞くと旅行の目的地にとべ動物園は入ってなかったそうです。それがたまたま早朝に道後商店街を散策している途中で、壁にくっついて弱っている様子のちびコウモリを見つけられたとか...。旅程をすべて変更して、とべ動物園までちびコウモリを連れてきて下さったそうです。「ほっとけなかったんです」と笑いながらおっしゃっていましたが、せっかくのスケジュールをあきらめてまでコウモリを連れて来て下さったそのお気持ちがとても嬉しくてありがたくて、県内在住のコウモリたちを代表して心からお礼を言いたい気持ちになりました。名前はもちろん「ドウゴちゃん」としました。広島在住のDさんとおっしゃるこの方、なんと昨年弱ったコウモリを見つけられて、当園に電話でご相談をいただいていました。そのことを思い出されて、とべ動物園を頼って下さったそうです。これもてんこモリがつないでくれたご縁ですね。Dさん、本当にありがとうございました。

 次の1頭は成獣でしたが、左前肢を骨折していました。「トヨちゃん」と名付けられたこの個体は、人で言う手の平に当たる部分と肘までの骨が折れているようでしたが、何しろ小さすぎて手術には耐えられないだろうということで、治療はせず経過を観察することにしました。幸い患部も化膿することなく、しかも初日から自力でミルワームをわしわし食べてくれました。そのおかげか、今では飛ぶことこそできないものの両前肢を使って移動もできるようになり、すっかり元気を取り戻してくれています。

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 保護して下さった方はトヨちゃんのために飼育ケースも寄付してくださいました。ありがとうございました。

 3頭目に「ことちゃん」がやって来ました。保護してから約一か月経っているとのことでした。でも体重はわずか1.41gしかなくクーちゃんやドウゴちゃんに比べるととても小さい子でした。コウモリの赤ちゃんを何度もお世話してみて感じるのは、やはり強い子、弱い子と個体差があるということです。ちゃんとミルクも飲んでいるのに全然大きくならない子もいました。その経験があるので、この小さい子を一か月もの間育てるのがどれだけ大変なことだったかよくわかります。その日も動物園に来る前に「ことちゃん」はたくさんミルクをもらったようです。ほんとに一生懸命に慈しんでお世話をしてもらっていたので、責任重大だと身が引き締まる思いでした。それから「ことちゃん」はミルクも一生懸命飲んでくれて、体重も少し増えて28日には1.6gになりました。しかし、翌日からミルクの飲みが悪くなり7月31日の朝、残念ながら死亡してしまいました。何もしてあげられなくてごめんなさい。

 それから約1か月は何事もなく平穏に過ぎていきました。ところが、9月11日の夕方、「ドウゴちゃん」が突然死亡してしまいました。体重も5gを超え、前の日にもミルワームを30匹ぺろりと食べていたのに、本当に突然としか言いようのない出来事でした。たいていは食欲が落ちたり、姿勢が悪くなるなどの兆候が出てくるので、抗生剤やビタミンを投与して治療するのですが、「ドウゴちゃん」には何もしてあげられず、本当に悔しいです。せっかく命をつないでくださったDさん、力不足で申し訳ありません。

 新しく仲間になった「クーちゃん」、「新ちゃん」、「トヨちゃん」はしっかり食べて何とかとべの環境にも慣れてくれたようです。まずは春まで頑張ってほしい。コウモリたちにとって、最初の冬を越せるかどうかが、それから先元気で長生きできるかどうかの一つの分かれ目なのです。

 次回はいつもの冬と様子が違う今冬のコウモリ事情についてお伝えする予定です。

現在10頭のアブラコウモリを飼育中(こども動物センターで会えるよ)

コウモリ豆知識

 さて、気持ち悪いとか、病原体のかたまりとか、コウモリはとかく嫌われがちです。特に西洋で定着した吸血鬼のイメージのせいで、コウモリがここまで忌み嫌われるようになってしまったのではないでしょうか。
 ところが、中国では真逆、とても縁起の良い動物として日用品や工芸品の意匠(デザイン)として図案化されているそうです。コウモリ母の恩師 故内田照章先生の著書「こうもりの不思議」(球磨村森林組合発行)にもその記載があります。先年亡くなられたので、直接お許しを得るわけにはいきませんが、この本に記載されているコウモリの縁起の良いデザインをお借りしましょう。どこかで見たような絵ではないですか?
 コウモリを漢字で書くと蝙蝠、蝠が福に通じるということで珍重されているそうです。特に5頭のコウモリを描いたものは「五福」と呼ばれ、いいこといっぱい(長寿とか健康、子だくさんとか、お金持ちとか名誉に恵まれる)そうですよ。
 ツバメが巣をかけるとそのお宅には幸運がやってくるという伝説があるように、アブラコウモリが住み着いたお宅にも福がやってくるかもしれません(あくまで個人の感想です)。それは冗談としても、あまり毛嫌いしない世界になるといいな(あくまで個人の希望です)。

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