愛媛県立とべ動物園

飼育日記

キーパー飼育日記

ヤマアラシのジレンマ

近づきすぎると怒られる。

みなさんは「ヤマアラシのジレンマ」という話を知っていますか?寒さの中、二匹のヤマアラシが暖め合おうと近づきます。しかし、近づきすぎるとお互いの体の針が相手に刺さってしまう。かといって離れると寒くなる。二匹は近づいたり離れたりを繰り返し、ようやくお互いに傷つかず、寒くも無い距離を見つける。人間関係を考える時のお話です。

これには自己の自立と相手との一体感の間で感じられるジレンマがあるという意味とそれとは逆に、お互い紆余曲折の末に、適度な距離が作れるようになるという肯定的な意味もあります。実際のヤマアラシは、針のない頭部を寄り添ってお互い温め合ったり睡眠をとっているそうです。「そうです。」というのも、まだとべZOOの2頭のヤマアラシにその光景を見たことがないからです。5月に同居訓練を初めてからしばらくは、互いに決して近いとは言えない距離を保ち、近づこうものならばガラガラと針の音を立てて威嚇。

すれ違う時は刺さらないように・・。

またひどい時はクーロ(♀)の攻撃でガチャピン(♂)の鼻に針が刺さってしまうことも何度かありました。そのため気分転換になるように土のあるパドックに2頭を出してお得意の土掘りに専念させてあげたり、コンクリートの階段状になっている広いパドックで距離をとらせてあげたりして生活に変化をつけてあげました。

でもだいぶ仲良くなりました。

そして猛暑の夏。2頭に少し変化がありました。なんと、あの臆病者のクーロがガチャピンの隣で寝ていたのです!あまりに暑くて影を求めた結果、2頭の居場所が同じにならざるを得なかったのかもしれませんが…。しかし、クーロの心に多少落ち着きが得られたことには違いないでしょう。ガラガラ音をたてずに寄り添う光景は、とてもほほえましいものです。これから秋、そして寒い冬を迎えた頃、2頭の距離はどうなっているのでしょう。互いに傷つけ合わず、上手に寄り添い温め合い、めでたく夫婦になってくれることを願うばかりです。