コウモリてんこモリ
コウモリてんこモリ その20
「コウモリてんこモリその1」を書いたのは2012年のことでした。その年に保護された赤ちゃんたちの成長記録を書き続けましたが、そのあとは、あまり頻繁に更新できず、何年かおきにぽつんぽつんと記事を載せるくらいでした。
にもかかわらず、ここ数年は夏になるとコウモリについてのご相談がとべ動物園に寄せられるようになりました。しかもそのほとんどは県外の方からです。コウモリに関する記事が少ないのだろうと思われます。と同時に10年近く前の記事がいまだに検索で出てくるということにびっくりです。絶対に間違った情報は書けないなあ、と襟を正す思いです。
そして今年も7月に入って、なぜか一斉に全国各地から赤ちゃんコウモリについてのご相談が寄せられるようになりました。だいたい6月中旬から7月にかけて赤ちゃんが生まれるので、ご相談の時期も集中するのですが、今年は特に極端な感じがします。異常気象の影響でしょうか...。
7月2日には松山市内で保護されたアブラコウモリの赤ちゃんがやって来ました。一緒にいた母親らしい個体は残念ながら死亡していたそうです。保護して下さったご家族が「クーちゃん」という可愛らしい名前を付けて下さっています。クーちゃんの成長ぶりについては今後ご報告をしたいと思います。どうかお楽しみに。
クーちゃん、たぶん生後1週間くらい |
クーちゃん、I獣医師が一眼レフで撮影してくれました |
さて、今回のコウモリてんこモリでは、去年ご相談を受けたうち、無事に自然に戻すことのできた「モンちゃん」というコウモリをご紹介いたしましょう。
昨年の8月末にご相談を受けましたが、その時にはすでに保護されてから2か月ほどが経過していました。以下、モンちゃんを保護されてから野生に戻すまでのMさんの奮闘記です。
①迷子のモンちゃん
6月28日にご自宅の前で動けなくなっていた1頭のコウモリを保護。
2日ほど様子を見たものの飛ぼうとする気配もなく弱っていたため、水を飲ませたり、ゆで卵やミルワームなどを食べさせて飼育を続けておられたそうです。手前味噌のようですが、当ブログ「コウモリてんこモリ」も参考にしていただいたとか。
保護してから2か月が経過した頃にメールでのご相談をいただきました。ご質問は一日に必要な餌と水の量、そして無事に飛べるようになって放すためにはどうすればよいのか?という内容でした。メールの文面からはこの小さな命を本当に慈しんでお世話して下さる様子や、自分で生きていく力を身に着けてもらってから野生に戻したいという温かいお気持ちが伝わってきました。
②モンちゃんは大人
アブラコウモリはたいてい6月中旬から7月にかけて出産します。自力で飛べるようになるまでには1か月くらいかかるのではないかと思います。6月28日に毛が生えた状態で保護され、すぐにご飯を食べてくれたモンちゃんは成獣か、もしくはよほど早く生まれた亜成獣ではないかと思われました。大人と赤ちゃんの違いは写真を参考にして下さい。
モンちゃん、おそらく成獣と思われます |
そこで、成獣は一日にミルワームを10から20匹ほど食べること(多い時はもっと食べることもあります)、できれば大きめのケージを用意してあげることなどをお伝えして、様子を見ていただきました。
③体調不良
ところが、次にいただいたメールには少し心配な状況が書かれていました。
自分でミルワームを食べてくれるようになったモンちゃんの食欲がだんだん細くなり、ほとんど食べない日もあったとか。さぞやご心配だったことと思います。私にもはっきりとした原因はわからず、コウモリの食欲には波があることをお伝えするくらいしかできませんでした。それでもMさんはあきらめずに根気よく毎日のお世話を続けて下さいました。深夜11時頃に水を飲んでいたモンちゃんに口元にミルワームを持っていったら食べてくれたこともあったようです。動物本人が食べたり飲んだりしたいタイミングを計るというのはとても大切ですが、じっくり観察しないとなかなかできないことです。
④突然の旅立ち
そんなMさんの努力のおかげか、モンちゃんの食欲も戻ってきました!!夕方ケージに置いたミルワーム12,3匹が朝になるとなくなっていたそうなので、しっかり自力で採食できるようになりました。
次はいよいよ野生復帰です。
なかなか飛ぶ気配を見せないまま昆虫がいなくなる冬を迎えてしまうのではないか、できれば餌となる昆虫がたくさん飛んでいる時に放獣したいというのがMさんのご希望でした。コウモリの子どもたちはある日突然飛べるようになりますよ、とお伝えしてモンちゃんの巣立ちを待ちました。
Mさんは夕方モンちゃんを外に連れ出しては一時間ほど飛び立つのを待っておられたようですが、なかなか飛び立たないまま季節は秋に移り、Mさんのメールにも少し焦りが見え始めた頃...。
Mさんから届いたメールには
10月14日の17時20分、モンちゃんは無事飛び立つことが出来ました(ノ≧▽≦)ノ
(嬉しいので赤字にしました)
という一文があり、読んだ私も思わず「やった~!!」(嬉しすぎて赤字にしました)と小躍りしました。この日のモンちゃんの様子はいつもと違って、外に連れて行くとMさんの手の平で体をぶるぶる震わせる内にとても体温が高くなり、急にぱっと翼を広げて飛び立ったそうです。ね、急に飛び立つんですよ!!
モンちゃんはしばらく旋回した後、たくさん飛んでいる他のコウモリたちと区別がつかなくなったそうです。そのくらい力強く飛び立つことができたんですね。
この原稿を書くために、いただいたメールをもう一度熟読しましたが、お恥ずかしいことに、また目頭が熱くなってしまいました。Mさんの頑張り、そしてモンちゃんの頑張り、それをコウモリてんこモリが少しお手伝いできたこと、そんな諸々が思い出されて今、ちょっぴりウルウル気分になっています。
野生動物と向き合うということは、過度に擬人化せず、あくまで自然の摂理を大切にするべきではないでしょうか。野生動物は決してペットではなく、家族の一員でもないのです。ですが、縁あって関わることになった命に対しては、できる限りのケアをして野生復帰を手助けしてあげることができるといいな、と常々思っています。Mさんとも同じような思いを共有した気持ちでいるので、モンちゃんの旅立ちをこのブログに掲載させていただきたいとお願いしたところ、快く許可してくださいました。でも、それは今年の冬のこと...。なかなか書けずにいる内にこんなに酷暑の季節を迎えてしまいました。
Mさん、遅くなってしまってすみません。きっと今頃、「モンちゃんは元気にしているかなあ?」と懐かしく思い出しておられることでしょう。元気でいますとも。そして、モンちゃんがメスだったら今年はお母さんになっているはずです。8月くらいになるとモンちゃんとモンちゃんジュニアたちが空を飛びまわることと思います。
3か月にわたるお世話、本当にお疲れ様でした。
初夏に生まれたコウモリは冬を迎える前には成獣になって、冬眠する4か月の間はほぼ飲まず食わずでも大丈夫なようにしっかり食べて脂肪をため込みます。そして冬眠に入る前に交尾をします。しかし、交尾後すぐに妊娠が始まるのではなく母親が冬眠すると子宮の中の精子も一緒に冬眠して一冬を過ごします。冬眠から目覚めると同時に精子も目を覚まして受精し、受精卵の着床、妊娠と進んでいき、初夏に赤ちゃんが無事に生まれるのです。これのどこが優れているかというと、冬眠はとてもリスクの高い方法なので、もしかして春になったら群れの中のオスがみんな死んでしまっているという可能性もゼロではありません。そんな時でも、メスさえ生き残っていれば、やがて子どもを生むことができるのです。南方から北へ向けて進出してきたコウモリたちの生活戦略の一つだろうと思います。秋にはほとんど例外なくすべてのメスが交尾をするので、もしモンちゃんがメスだったらきっとお母さんになっているはずなのです。
コウモリてんこモリ バックナンバー
-
【その19】千葉県での赤ちゃん保護 またまた久しぶりの更新になってしまいました。 去年から今年にかけて、愛媛県内で50年ぶりにヒナコウモ...
-
【その18】コウモリ団子の巻 コウモリ団子 今年6月下旬のこと、1本の電話がかかってきました。コウモリについてのご相談でした。お...
-
【その17】赤ちゃんデビューの巻 ご無沙汰しました 「タオルにくるまってご機嫌な小ちゃん」 大変長い間、更新が滞っていましたコウモリ...
-
【その16】無力の巻 悲しいお知らせ 「元気だった頃のデカ君」 またまたしばらく更新が滞ってしまいました...。 前回、...
-
【その15】小ちゃん ピンチッ?!の巻 冬到来 しばらく更新が滞っていた間に、コウモリトリオは(準)冬眠モードに移行し、ミルワームを食べる量...