愛媛県立とべ動物園

飼育日記

キーパー飼育日記

親離れ、子離れ

2011年1月31日午前10:25にトラの親子を分離しました。
2009年8月15日の朝、メスのウミの寝室に産まれたばかりの仔トラを発見しました。当時、トラは繁殖を目指してオスのタイとウミを4年近く同居していたのですが、全く繁殖行動が見られず、2009年5月で同居を解消したばかりで、妊娠は予期していませんでした。ウミは産後なかなか落ち着かず、人工哺育も考えていましたが、お昼すぎに最後の5頭目の仔を産み終えると、仔トラたちを安全と思える場所に運び、体を舐めてきれいにし、夕方には授乳も確認でき、すっかり一人前の母親になりひと安心しました。ウミはこの時10歳で初産でした。人間でいうと高齢出産になり、トラは通常多くて2頭から3頭の出産がほとんどなのですが、いきなり5頭の出産はかなり稀なケースといえます。また、ウミ自身は人工哺育で育ったため子育てのノウハウは全く知らないはずなのですが、本当に立派に子育てを完遂してくれました。しかし、長い子育ての間にはいろいろなことがありました。

最初の試練は生後10日の間に2頭の子どもが残念ながら亡くなってしまったことです。ウミは子どもの亡骸を自分で食べて処理しました。一見残酷に思えますが、野生下で死んだ子どもを放置してしまうと、死体の臭いにつられて他の肉食動物が近寄ってきて、他の子どもまで危険にさらしてしまいます。とにかく清潔に保つというのが母親の仕事でした。生後40日を過ぎるとウミだけをストレス解消のため外の放飼場に出すようにしたのですが、帰ってくると、まず、自分のエサを食べるのではなくこどもたちの排泄物を食べて室内をきれいにしていました。外敵のいない動物園でも母親の本能がそうさせていたのだと思います。

ウミの愛に包まれてこどもたちはすくすく育ち、1歳を過ぎるころには、どれが母親のウミか区別できないほど大きくなりました。(もちろん担当者は一目でわかりますよ!)野生下では2年ほどは母親と暮し、狩りの仕方などを学びますが、狩りの必要のない動物園では栄養状態も成長速度も野生下と比べ物になりません。ウミにもゆっくりしてもらうため、親仔の分離を行いました。分離する前はウミの落ち着きがなくなったり、子ども同士がケンカしたり、ウミを捜して鳴いたりしないかと心配しましたが、子どもたちは意外と平然と暮しています。そんな姿をまた見に来て下さい。